九州大学 芸術工学部 工業設計学科には「計画設計プロジェクト演習」という学部3年生対象の授業があります。毎年、インダストリアルデザイン担当の複数の教員がそれぞれテーマを提示し、学生たちは興味のあるテーマのプロジェクトを選んで参加します。この授業は、座学ではなくプロジェクトベースで進めるのが特徴で、教員にとっては新しいデザイン教育のあり方を探り、あるいは新たなデザインの可能性にチャレンジし、学生にとっては正解のない課題に問題意識をもって取り組むという実験的な試みの場でもあります。
2019年12月19日木曜日、前触れもなく大橋キャンパスの真ん中に出現して、道ゆく人を少しばかり驚かせた1日だけのインスタレーション展示は、学生のアイデアによる授業のプレゼンテーションでした。多次元実験棟の壁には「言葉とか文字では、ひとは動かせないのか。」と書いた4枚の大きなベニヤ板を吊るし、噴水と木の間には高さ2.7メートル、幅と奥行きが90センチの背の高い箱と、デザインにまつわるメッセージや問いかけを書いた約40個のコンクリートブロックをロープで箱につないで設置。さらにキャンパスのいたるところに、メッセージを印刷した張り紙を配置しました。
このプロジェクトの担当教員(池田美奈子准教授)が最初に提示したテーマは「デザインのモヤモヤに効く言葉の処方箋」。デザインの概念が拡張し、実に広範囲な物や事がデザインの対象となった今、学生に限らず、多くの人たちがこうした状況に可能性を感じつつも、一体何がデザインなのか、どこまでがデザインなのか、デザイナーの職能は何なのかといった疑問に直面してモヤモヤしているようです。このテーマには、こうした「デザインのモヤモヤ」を感じている人々にインスピレーションを与える言葉の展覧会を開催して、議論や対話の場をつくり出そうという意図がありました。
屋外で、しかも大きなインスタレーションとして表現したのは、デザインにまつわるたくさんの言葉を身体で感じてほしいというアイデアでした。私たちは、いつもコンピュータやスマホの画面を覗きこみ、視覚だけで情報に接しています。今回の展示では、リアルな空間に設置した物質感のある作品に接してもらうことで、身体を動かしながら言葉と出会い、その意味を五感で感じ取り、同じ時間と場所に居合わせた他の誰かとその場で言葉をかわす機会を創出しました。当日は実際、多くの学生や教員、スタッフの方々が通りすがりに足をとめ、長い時間をかけて作品のなかの言葉を一つ一つ見て、腑に落ちた言葉、気になった言葉を見つけて心にとどめていただけたようです。
たった1日だけの唐突な展示の意図は、展示開始からわずか9時間後に撤収されてしまった展示のあとの何もない空間に立ったとき、確かにそこにあった「身体性を伴った物質」を思い出し、言葉を反芻してほしいということでした。
夕方7時、すでに暗くなったキャパスで撤収を終えたとき、プロジェクトメンバーの学生たちは予想以上に、多くの来場者が時間をかけて展示を見ていたことに手応えを感じていました。今回の展覧会のコンテンツは再編集して、次は本を制作し別のメディアに展開する予定です。
日時
2019年12月19日10:00-19:00
場所
九州大学大橋キャンパス内
福岡市南区塩原4-9-1
お問い合わせ
九州大学大学院芸術工学研究院
池田美奈子
ikeda(a)design.kyushu-u.ac.jp
Member
- 山野和磨 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 小串亮太郎 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 水田雅也 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 川窪海聖 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 中川頌 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 北島壮智 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 上妻寛典 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 山田亮文 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
- 教員:池田美奈子 准教授 九州大学大学院芸術工学研究院