ウェルカム・トラストの2017年人文・社会科学分野シードアワーズによって、ロバート・ゴードン大学のレスリー・メイボン氏(研究責任者)、銘伝大学のシン・ワン・ユウ氏、ハノイ工科大学のグエン・ホアイ・ソン氏、九州大学の近藤加代子教授がこのプロジェクトで協働しました。
このプロジェクトでは、猛暑に対する都市の脆弱性におけるエネルギー関連政策の影響を評価するモデルを開発し試験運用を行います。ハノイ、福岡、台北を事例研究の対象都市としています。
気候変動に伴う気温上昇が深刻な健康上のリスクをもたらし、また、気温上昇を緩和するための空調設備といったテクノロジーがエネルギー消費に波及効果を持つことは広く認められています。しかし、その一方で、一般市民が気温上昇に対しどのように電力のコストや可用性の影響を受け得るかについてはあまり明らかになってはいません。特に、気候変動の影響を緩和するために開発された低炭素エネルギー技術が、より高価で断続的な電力供給に帰結し得ることへの理解は進んでいません。
都市計画や健康・社会福祉政策の立案者が、各都市において酷暑のもたらす健康被害への脆弱性がもっとも著しい地域を特定する際に、過度の熱による体調悪化、社会経済的脆弱性、将来のエネルギーミックスについての統合的な評価は重要です。またそのような評価を行うことは、気候変動への適応力において、将来のエネルギー政策が潜在的な影響力の理解を深めるためにも必要です。
このプロジェクトでは、九州大学は、都市熱環境とエネルギー消費にたいする福岡市民の姿勢と理解について調査を行いました。ロバート・ゴードン大学 (RGU) による政策分析と聞き取り調査も併行しました。これら2大学による福岡市での取組みにより、都市熱環境関連の効果的なガバナンスについての基盤的知見が得られました。この知見は、ハノイと台北への応用が可能で、これら2都市を対象とした将来の社会科学研究プロジェクトの基礎になり得るものです。RGUは猛暑に対する社会的脆弱性の指標についても考察しました。
銘伝大学は、都市開発のパターンが都市内の熱分布にいかに影響し得るかについての知見を得るため、ハノイと台北を対象として、リモートセンシング研究と空間解析を行いました。
ハノイ工科大学は、ハノイと台北を対象として、熱による体調悪化、収入、天候、住環境、そして、家庭消費者に関連する社会経済的要素を基にエネルギー不安定性モデルの構築を行いました。
2018年4月26日に福岡市の九州大学大橋キャンパスで、研究チーム全体が一同に会し、研究結果を共有しました。この会合は非常に有意義で、有望な成果が得られました。
研究チームでは、この研究の継続と対象の拡大を検討しています。