国際生活機能分類(ICF)
International Classification of Functioning, Disability and Health

人間を中心としたデザインを考える際、ターゲットという軸によりデザインは2つに大別される。1つは、個々人の趣味嗜好を対象としたプライベートデザイン、もう1つは主に公的な空間において、より多くの人を対象に相互の最適な関係をデザインするパブリックデザインである。パブリックデザインの場合、対象が駅・病院・図書館・公園・学校等の公的な空間であることから、その場所を利用する人には、性別・国籍・年齢・障害の有無と種類など様々な属性が考えられる。つまり、より多くの「人」を想定した柔軟なデザインが、パブリックデザインには求められる。

ICF国際生活機能分類は、WHO(World Health Organization)世界保健機関により、2001年5月に採択された「“生きることの全体像”を示す“共通言語”」とであり、障害者だけではなく、全ての人が対象になる。ICFは、健康状態・生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)・背景因子(環境因子・個人因子)の要素から構成され、組み合わせによって約1500項目の分類がなされる。各要素は、一方向ではなく、相互作用からなるというのがICFの考え方である。

一方、ICFの前身である、ICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps, 1980)国際障害分類は、障害者を対象とした、一方向の考え方であった。つまり、疾患・変調などの障害を生まれ持った人は、機能・形態障害を引き起こし、それが能力障害になり、handicapという社会的不利を被るという構造である。このモデルは、障害を機能・形態障害、能力障害、社会的不利の3つのレベルに分けて捉える「障害の階層性」を示した点で、画期的であったが、障害によるマイナス面を分類するという考えが中心であった。ICIDHに変わったICFは、生活機能をプラス面から見るという視点の転換、そして影響を及ぼす因子として「環境因子」の観点が加えられたことが、大きな変化である。

「環境因子」の構成概念は、「物的環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境の特徴がもつ促進的あるいは阻害的な影響」と定義されており、『Towards a Common Language for Functioning, Disability and Health ICF』(2002)によると、例として、“社会的態度”、“建造物の構造”、“法律的・社会的な構造”、“気候”、“地形”など、人的・物的・物理的環境が挙げられている。また、環境因子の肯定的側面には“促進因子”、否定的側面には“阻害因子”が定義されている。つまり、環境因子により、人々の“生きることの全体像”はよくも、悪くもなるということが公的に示されているのである。

デザインは、ICFにおいては「環境因子」に位置付けられる。例えば、人を目的地に誘導するサイン計画デザインの場合、文字情報が精査され、可読性の高い書体が使用され、配色がコントロールされ、文字を読まなくても意味が理解できるピクトグラムが併記されていたら、それはわかりやすいという「環境因子」となり、対象者の「活動」の要素に、促進因子を及ぼすだろう。そして、無意識下において自分で「活動」ができたという喜びが自己肯定感を高め、「心身機能」に良好な変化を及ぼすかもしれない。

しかし逆の場合は、「活動」を制限し、機能障害をうむことになるだろう。同じく、サイン計画デザインを例とすると、必要以上に文字情報が多く乱雑に表記され、可読性の低い書体が使用され、彩度の高い色が複数併用され、抽象化された意味が伝わりにくいピクトグラムが併記されていたら、それはわかりにくいという「環境因子」となり、対象者の「活動」のに、阻害因子を及ぼす。そして、無意識下において自分で「活動」ができなかったという自信低下、自己肯定感の低下から、「心身機能」に悪影響を及ぼすかもしれない。

この様に、デザインと人は密接な関係にあるが、私たちは意識的に気付くことは少ない。

つまり、ICFにおける人とデザイン=環境因子の考えを基盤に、人の生活機能構造を考えると、自ずと人を対象としたデザインの役割が明確になる。デザインという環境因子によって、対象となる「個人因子」をもつ人に、どの様な相互作用をうみたいのか、要素ごとに具体的に考えることで、様々な人を包摂するデザインが可能になるのである。 

参考図 ICDHとICFの違い(筆者作成)

(工藤真生)

参考文献