パブリックデザイン
Public Design

パブリックデザインは、公的な場(パブリックスペース)をデザインする環境デザインの一領域であると言える。『空間学事典』によれば「太陽・水・風・緑・土といった自然要素と都市建築群といった人工的物理的要素に対する人間・生態的視点からの基礎計画と形態付与行為を環境デザインという」とある。また、『パブリックデザイン事典』では、「人と人、人々と人々のよりよき“かかわりあいの場”の形成を、私達は環境デザインとしてとらえている。パブリックデザイン(公共空間のデザイン)は、この環境デザインを形成する一つの領域である」とあり、この事典は、対象となる空間領域の分類に公的な場・私的な場という設定を行い、公的な場における屋外空間の環境デザインをパブリックデザインという言葉で表現している。


ただ公的な場である都市空間には、単純に屋外空間として捉えにくい空間が存在する。天井と沿道の施設の外観によって構成されたアトリウムやアーケード(ガレリア、パサージュ)、コロネードなどと呼ばれる空間がそうである。こういった領域を、ゲシュタルトの図と地の関係に例え、主体がどの領域に所在するかによって屋内ととらえるか、屋外ととらえるかが入れ替わる両義的な空間と説明する見解もある。しかし、ふだんの生活においては、塀や柵、壁面等の物理的な境界が設置されてはじめて、人々は空間の区別をつけているのが実情である。そうであるとすれば、前述のアーケードのような例においては、屋内・屋外に分かちがたい様々な空間タイプがその内部に混在していることから、その空間全体を屋内・屋外のいずれかに一様に区分することは難しい。パブリックデザインの対象となる公的な場については、都市化により、その公的性格を定義するのが容易ではなくなっていると言える。


人々が集住し共同して生活を行う場合には、必ず人と人が関わりあう公的な場が必要となる。そしてその場には、そこで繰り広げられる人々の多様な行為を条件づけ、その気候条件を左右し、周辺環境を構成する様々な要素が存在することになる。都市空間においては、建築物や土木構造物が主要な構成要素をなしているが、それらに加え、必ずそこには、人々の屋外生活をサポートするための「モノ要素」が存在している。19世紀フランスにおいて、ナポレオン3世はセーヌ県知事オスマンを通してパリの大改造を行った。そのとき、都市の中に設けられた公的な場の代表格である広場には、照明や広告塔等の多くのモノ要素(工作物)が設置された。日本でも、幕末期には全人口のうち都市に居住する人口が15%にも及んだ。城下町には広小路とよばれる広い街路が形成され、そこには外灯や防火用水の天水桶等が設置された。今日においては、都市基盤の整備によって屋内外の基本的機能の充実が図られており、公的な場での生活のありかたに対する人々のニーズは多様化している。

公的な場に存在するモノ要素、例えば照明や標識、防護柵などは、多くの人々が同じ場で生活するにあたって生じる様々な危険から人々の安全を守り、安心を確保するために必要である。ベンチやくず入れなどは、公共の場での衛生状態を保ち、人々の滞在時間を延ばし、人々の快適さを実現するために必要である。このように公的な場に設置されるモノ要素は、その役割によっていくつかに分類されるとしても、これらのほとんどは工業製品として工場などで生産され、必要とされる不特定の場に供給される形態をもつ。建築や土木の分野では、整備対象となる特定の場を立脚点として、その場に合わせた一点限りの設計が意図される。これに対し、インダストリアルデザインが取り扱うモノ要素については、すでに生産された製品を立脚点として、その製品をその場の特殊性においてどのように設置し活用するかの検討が行われる。この点で、インダストリアルデザイン分野におけるパブリックデザインは、建築や土木における環境デザインから区別される。

公的な場での生活を支えるモノ要素のデザインに関しては、まずモノ要素のみで環境が生み出せないことの認識が必要である。公的な場に設置されるモノ要素の検討においては、それが設置される空間や周辺環境との関係、他のモノ要素との相互関係、公的な場を利用する生活者の行為・行動との関係、さらには都市形成に必要な規範やルールとの関係、これらすべてを考慮した計画が必要となる。

これに対し、新規の整備事業や、一般的な都市環境の整備においては、都市計画のもとで土木事業、建築事業のように縦割りの業務区分で事業者ごとに設計がなされることが多く、また、自治体などの開発事業者がモノ要素のみを購入し既存の空間に設置することもある。こうした場合、重複した整備、不揃い感、デザイン的な配慮の欠落などが発生しやすい。複雑化・多様化が進む現代の都市整備においては、従来の業務区分による事業や、モノ要素を既存の空間に設置するだけの整備では、公的な場に対する利用者からの多様な要求に対応できない。

都市生活者は、土木事業や建築事業といった既存の事業区分にしたがって都市を把握しているわけではなく、生活のなかにある行動において都市に触れ、それを見て、体験する。このように生活者は、連続する環境として都市空間を認識する。重要なことは、その空間が誰かによって整備されたという事実ではなく、都市空間を構成する要素が脈略のある姿をとって生活者に体験されることだと言える。個々のモノ要素それだけを取り出してデザインするのではなく、公的な場に設置されるモノ要素に立脚点を持ち、そのモノ要素をとりまくあらゆる関係を考慮してデザインすることがパブリックデザインである。それは、人々の豊かな生活の場となる公的な場を創出するデザインであると言える。

(曽我部春香)

関連する授業科目 

インダストリアルデザインコース ライフスケープデザイン概論

インダストリアルデザインコース ライフスケープデザイン実践論

人間生活デザインコース大学院  パブリックデザイン

参考文献

  • 日本建築学会編(2007)『建築・都市計画のための空間学事典[改訂版]』井上書院
  • パブリックデザイン事典編集委員会編(1991)『パブリックデザイン事典』産業調査会事典出版センター