ディゼーニョ
disegno

現代のデザインの概念のうちには設計や計画といった工学的な側面が含まれるが、他方で、かたちの輪郭を手によってさしあたり素描するという含意も存在する。後者の側面は、15世紀のイタリアルネサンスにまでその源流をたどることができる。

英語のdesignに関するOEDの記述によると、イタリア語で素描、もしくはデザインを意味する言葉であるディゼーニョは、ルネサンスやそれ以後の時代において、造形芸術の中核をなす概念として発展し、フランス語のdessin を経て、現代の英語の designに大きな影響を与えたとされる。

15世紀に線遠近法の方法的原理を確立したアルベルティは、その著書『絵画論』において、線によってかたちをかたどる局面を「ディゼニャメント」もしくは「ディゼーニョ」と呼んだ。アルベルティによれば、目の奥から発して対象物の縁へと至る光線(外廓光線)が、その中間に垂直に置かれた画家のキャンバス(ヴェロ)に遮断されるところに線が描かれるとされ、かくのごとく幾何学的に規定された線描の方法がディゼニャメントと呼ばれた。だが同時にそのような線描の方法は、そこに描かれるべき主題や思想内容をもっとも効果的に演出するものでなければならず、また主題内容は線遠近法をもっともよく活かすようなかたちで配置される必要があった。線描の方法的・形式的原理と主題の素材的・内容的意味とが完全に融合するとき絵画の美が成立するというのがアルベルティの主張であり、それゆえに彼は15世紀ルネサンスの代表者であると見なしうる。

これに対して16世紀に活躍したヴァザーリは、これまで絵画、彫刻、建築などそれぞれの制作対象によって別れていた仕事の根底には同一の造形原理が存在し、それゆえそれは「芸術」と呼ばれるべきと主張し、その造形原理を「ディゼーニョ」と名指した。ヴァザーリによればディゼーニョは、たんに幾何学的に、つまりそれを描く人間から独立した方法論によって描かれるべきものではなく、まさにその人間の身体によって、同時にその身体にとって説得力を持つようなしかたで、かたどられるべきものであった。したがって描かれるものは、アルベルティのいうような幾何学的原理から見れば歪んでいるように見えるとしても、しかしその歪みこそが、制作者や鑑賞者の精神や身体に対し、ある種独特のリアリティを与えることになる。この意味でヴァザーリは、同時代のマニエリスムの芸術にその基礎を与えたと目される。

また17世紀初頭にツッカリは、『ディゼーニョのアカデミアの生活における起源と進歩』(1604)などの著書において、「ディゼーニョ・インテルノ」の概念を提示した。彼によれば、外界に存在する事物を幾何学的に模写(アルベルティ)したり、身体によって補完(ヴァザーリ)したりするのではなく、すでに心に抱いている観念を外部に投射することこそがディゼーニョだとされる。その過程で人間は、心の内奥に顔を覗かせている神と創造の火花を散らすと主張される。ディゼーニョを可能ならしめる根拠は、ツッカリにおいては、心の内に抱かれた概念、ひいては神に由来する観念なのである。ツッカリの思想は、神の演算の結果として人間の知覚が可能となり、ひいては外界の表象(イメージ)が成立するという、ライプニッツに代表されるバロックの思考方法の入り口にあるといえる。

このように、ルネサンスとその後の時代においてはいずれも、描線の根拠として外界に由来するものと内面に由来するものとが危ういかたちでバランスを取っており、そのかぎり、機械論と有機論とがそれぞれ独自な仕方で融合を果たしているということができる。このようなディゼーニョ概念はいずれも、ヴァザーリが定義した「芸術」における造形の原理として展開されたものであるが、そのうちには、機能主義や人間中心主義、アルゴリズムといった現代デザインを特徴付ける思考の先行形態を見いだすことができる。

(古賀徹)

関連する授業科目

未来構想デザインコース デザインの哲学

参考文献

  • アルベルティ(1989)『絵画論』三輪福松訳、中央公論美術出版
  • ヴァザーリ(1980)『芸術家列伝』(ヴァザーリ研究会編『ヴァザーリの芸術論』、平凡社所収)
  • 古賀徹(2020)「イタリア・ルネサンスにおけるデザインの起源 アルベルティ、ヴァザーリ、ツッカリにおける有機論と機械論」(『芸術工学研究』33号所収)