九州大学芸術工学研究院、ビジネススクール(QBS)、アントレプレナーシップ・センター(QREC)は第2回デザイン×ビジネス×アントレプレナーシップの未来を考えるセミナーとして、 株式会社和える創業者・代表取締役の矢島里佳氏をお迎えし、『日本の伝統産業とイノベーション』をテーマにお話を伺いました。会場には学内外から約30名ほどの参加者を迎え盛況となりました。以下、本学大学院芸術工学研究院の徳久悟が当日の様子をお伝えします。
矢島氏は慶應義塾大学法学部在学中、ジャーナリズムを専攻し、伝統産業への取材を通じて、心の豊かさを醸成するためのメディアとしての伝統工芸に着目。単にメディアを通じて伝統工芸を伝えるだけではなく、小売を通じて直接顧客に商品を届けることに関心をいだき、創業に至りました。
セミナーでは、矢島社長の和える創業に関するストーリーに加えて、会社のあり方、事業展開、運営方針などを中心に90分の講義のうち特に印象に残った箇所を抜粋します。
・採用のハードルを上げる(現在、新聞3P程度の分量)ことで、質の高い人材、文化に共感した人材が集まるため、結果として採用コストは下がる。
・「文化が経済を育て、経済が文化を育む」という思想のもと、文化のデザインを重視している。
・従来伝統工芸に関する小売だけであったが、不確実性の観点から、様々な事業を展開している。またこれらは論理的に導かれたものではなく、直感的なものである。
・伝統工芸の小売の場合、高価格帯での展開にならざるを得ないため、これらにアクセスできる顧客は所得がある程度高い層に限定されてしまい、分断が発生する。この分断を解決するための1つのアプローチとして、STEAM教育に着目している。
セミナーに続く質疑応答セッションでは、伝統工芸の課題である原材料の高コスト体質とどう向き合うかや、伝統工芸に関心のない世代への普及のさせ方、デザイン x ビジネス x アントレプレナーシップをどう獲得してきたかなど多岐にわたる質問が相次ぎ、終了時刻を迎えた後も、対話を続ける参加者が列をなすなど、熱気あふれるセミナーとなりました。
矢島里佳 Yajima Rika
1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和える創業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出し、オンライン直営店から始まる。2014年には事業拠点となる東京「aeru meguro」、2015年京都「aeru gojo」をオープン。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集される。
その他、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。世界経済フォーラム(ダボス会議)「World Economic Forum – Global Shapers Community」メンバー。2015年 第4回 日本政策投資銀行(DBJ)「女性新ビジネスプランコンペティション」にて、女性起業大賞受賞。2017年 第2回 APEC「APEC BEST AWARD」にて、APEC best award大賞、Best social impact賞をダブル受賞。京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき大賞」を受賞。
著書『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)、『やりがいから考える 自分らしい働き方』(キノブックス)その他3冊あり。
日時
2019年11月21日16:30-18:30
場所
九州大学大橋キャンパス7号館ワークショップルーム
福岡市南区塩原4-9-1