広告デザイン 
Advertising Design

広告デザインとは、広告主(client)が提供する商品やサービス、あるいは広告主そのものに関する情報を、広くオーディエンスに知らせるために、広告表現を企画・制作することである。コピー(広告表現のことば)、ビジュアル、ムービー、サウンドに加えて、場合によってはネーミングやパッケージなど、デザイン技術に基づいた様々なメディア表現を介して、オーディエンスの意識に働きかけるコミュニケーション全体のデザインを指す。


クリエイティブディレクターは広告主の課題を整理した上で、問題の所在を明らかにし、コンセプトを立案し、広告コミュニケーションの全体をディレクションする。最終的なアウトプットとなる広告表現を計画すると同時に、ターゲットとなるオーディエンスが、その表現に接触する場面を具体的に思索する力が求められる。オーディエンスの意識にどのように働きかけるのか、その方針に従ってメディアプランニングを行い、コピーライター、プランナー、アートディレクター、デザイナー、撮影監督、カメラマンなど各メディアの制作スタッフを選定する。クリエイティブディレクターがいくつかを兼ねる場合も多い。


広告表現にはさまざまなレトリックが使われる。コンセプトに基づいて、コピーや映像ほか全ての表現が、商品やサービスにとって有益な、ロラン・バルトのいうコノテーション(二次的意味、暗示的意味)を発生させることを主な目的としている。例えばスポーツドリンクという言葉は、この言葉自体が持つデノテーション(一次的意味、明示的意味)は、「運動時の水分補給を促進するよう、浸透圧を体液に近づけた飲料水」であるが、CM動画やポスター、さらには商品のネーミングやパッケージデザインによって、「清涼感」「青春」「安心」「友情」など、さまざまなコノテーションを発生することになる。


企業は商品設計や販売方針を決定し、商品やサービスの流通を促進するためにマーケティング活動を行う。広告は、マーケティング活動に大きな影響を与えるが、広告デザインはマーケティング調査の結果から直接導かれるものではない。広告の目的は、商品やサービスのスペックを事細かに説明することではなく、商品やサービスのあるシーンやシナリオ、ストーリーを表現することで、商品それ自体のマーケットよりも、その動機となる〈オーディエンスの意識〉のマーケットに働きかけることにある。企業活動だけを見れば、購入につながることが第一義だが、社会全体のコミュニケーションという観点からすると、買う、買わない以前に、迷うこと、躊躇することを含め、その商品やサービスとオーディエンスとの関係をつくること、すなわちコミュニケーションを成立させることが広告の目的となる。


オーディエンスとのコミュニケーションを通じて、醸成されるのがブランドである。ブランドは、商品やサービス、あるいは広告主そのものを競合他社と識別し、差別化することを意図したネーミング、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせとされるが、そこにはオーディエンスとの関係の中で形成された評価や信頼が含まれる。ブランドとしての認識は、オーディエンスにとって、信頼や信用に基づいた重要な判断材料となる。広告デザインは、ブランド構築、さらには醸成されたブランドの維持、マネジメントに大きな役割を果たしている。


広告主には、企業や国、自治体、非営利組織等(場合によっては個人)がなる。広告主は媒体費を支払って、広告媒体(paid media)に広告表現を掲出する。これに対して、SNS等のシェアード・メディア(shared media)やニュースサイトが、記事として商品に関する情報を掲載する場合、広報(PR: public relations)あるいはパブリシティ(publicity)と呼ばれ、掲載媒体はアーンド・メディア(earned media)と呼ばれる。


アーンドとは信頼を「獲得した」という意味だが、従来からの新聞や雑誌の記事、テレビやラジオのニュースも、媒体社が自主的に取材したもので同様の性質を持つ。すなわち組織として社会的責任を負う媒体社が、広告主とは異なる第三者として発信する情報であるがゆえに、オーディエンスに信頼される。


他方で、個人のSNSの記事の信頼性、信憑性は、近年しばしば問題になっている。誰もが簡単に情報を共有、発信、拡散できるシェアード・メディアは、広報にとって極めて有効な媒体であるが、フェイクニュース問題など、その情報の信頼性は課題でもある。


よい広報を実現するためには、ニュース素材として記者が取材しやすいよう、新商品や新規事業の情報をまとめたプレスリリースの発信や、関連する話題の提供、広告主の公式サイトの更新が重要になる。広報の体裁を踏襲したペイド・パブリシティ(paid publicity)や記事広告といった広告手法は古くから一般的で、媒体費を支払って出稿する広告媒体と、第三者が自主的に制作する広報媒体を合わせて、広告コミュニケーションは成り立っている。


インターネットやテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、屋外広告、イベント、販促ツール、ダイレクトメールなど、さまざまな広告媒体を介して広告表現は掲出される。マスコミ四媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)による一方向的な情報伝達に対して、インターネットではオーディエンスを含めた双方向のアクションが容易である。さらに、以前はマスコミ四媒体に対して副次的なものとされていたイベントや販促キャンペーン、屋外広告(Out of home Ad)などの広告手法が再評価されている。リアルな生活の場でオーディエンスが遭遇する広告表現には、オンライン上の情報では得られないライブの強みと、ある種のリアリティがある。SNSの急速な普及に伴い、興味を引く表現、いわゆる「映える」ものであれば、一般の人々が自主的に拡散してくれる。オンライン技術の進化の結果、ライブとリアルの魅力が再評価されたのである。


オーディエンスの属性や履歴に応じたメディアプランニングや、デジタルマーケティングの進化は、さまざまな媒体評価の指標を生み出すが、そこではいかにスコアをあげるかという手段の目的化が起こりがちである。媒体を細かくセグメント化したからといって、そこに良好なコミュニケーションが成立するとは限らない。テクノロジーの進化が、マーケティング調査や評価指標とコミュニケーションの乖離を生んでいることは広告デザインにとって今後の大きな課題である。


アプリやツールの進化により、簡単に低コストで誰もが映像編集やグラフィックの制作を行えるようになり、広告制作者のすそ野が広がるのはたしかに歓迎すべきことである。他方で、いかなる広告表現が優れているのかはここでの論点ではないが、コンセプトやクリエイティビティの欠けた、たんに従来の形式だけを模倣した内容を伴わない表現、法には触れないものの不快さを与える表現が多くなることは避けなければならない。クリエイター、広告制作者としての個人としてのモラルが問われている。


広告デザインは、オーディエンスがそれを広告であるとわかった上で、それでもなお接触してくれるかどうかに焦点を当てている。当然それは純粋なエンタテインメントや芸術体験とは異なるが、オーディエンスにしてみれば、それが広告であるかどうかに関係なく、興味を覚えればその表現に接触するし、それを共有するであろう。


ブランデッド・エンターテインメント(ブランデッド・コンテンツ)は、映画やドラマなどのエンターテインメントコンテンツの持つストーリーや世界観などの文脈を活用して、ブランドの価値を効果的に伝える共感型の広告手法である。ショートフィルム形式の映像コンテンツが主流で、従来の長尺CMと比較して、コンテンツとしての質の高さが特徴である。広告主の公式サイトやSNS、チャンネルなど、広告主自身が所有し展開するオウンド・メディア(owned media)で公開するのが一般的である。オウンド・メディアの活用には、コストを抑え、コンテンツを自社資産としてアーカイブできるなどのメリットがあるが、その運営やコンテンツ制作には広告主自身のクリエイティビティが必要となる。


映画やドラマの中に特定の商品を露出させるプロダクト・プレイスメントは、すでに古典的な広告手法である。この場合も、ストーリーの中にいかに商品を忍ばせるかに腐心するのではなく、コンテンツを制作するにあたり、実際のプロダクトを入れることがシーンのリアリティに貢献すると同時に、それが広告にもなり得るのだと考えることが、商品やサービスというものの社会的意味を考える上でも建設的であろう。

(齋藤俊文)

参考文献

  • ロラン・バルト(1971)『零度のエクリチュール 付・記号学の原理』渡辺淳、沢村昂一訳、みすず書房