カラーユニバーサルデザイン
Color Universal Design

視覚表示物のデザインにおいて色彩は重要な役割を担っている。視覚表示物において、色彩は視覚情報を構成するための基本構成要素である文字や記号、あるいは図を形造り、さらに、色彩そのものが感情や印象を伝えることもある。このように、色彩は情報や感性のコミュニケーション手段として用いられている。しかし、色覚特性は多様性があり、全ての人が同じ色を見ているとは限らない。すなわち、送り手は、受け手の色覚特性をも考慮して色彩デザインを行う必要がある。例えば、2色覚と呼ばれる色覚特性(いわゆる「色覚異常」)を持つ人には、混同色と呼ばれる見分けられない色の組み合わせがあり──色を見分けられるかどうかは、Class A Observationの課題であり、客観的な測定が可能である──、しかも、3色覚と呼ばれる大多数の色覚特性(いわゆる「色覚正常」)を持つ人と色の見えが異なる場合がある)(太田、清水 1999)

そもそも、色知覚は、個人的かつ主観的な体験であるため、各個人は自分の色知覚しか知らず、他人がどのような色を見ているのか直接的な方法で正確に知ることはできない──何色として見えるのかは、Class B Observationの課題であり、客観的な測定は不可能である。色覚特性が異なる3色覚を持つ人と2色覚を持つ人の間ではなおさらである。せめて、2色覚の人が見分けられない色の組み合わせである混同色を用いずに、色彩による情報伝達を担保しようとするのが、カラーバリアフリーデザインやカラーユニバーサルデザインである。このカラーユニバーサルデザインを実践するためには、多様な色覚特性の特徴や色知覚を知ることが不可欠であり、多くの研究結果から、2色覚の混同色が明らかになり、さらに、2色覚の人が見ているであろうという色も推測されている(Brettel, et.al. 1997)。現在、2色覚に関する知見をもとに、カラーユニバーサルデザイン手法が提案され、広く使われるようになっている。

カラーユニバーサルデザイン手法には、大きく分けて2つの方法がある。ひとつは、2色覚を持つ人がどのような色を見ているのかをシミュレートし、そのシミュレーション結果(一般的に2色覚シミュレーションと呼ばれている)から色彩デザインを評価する方法である。2色覚シミュレーションには、片眼が3色覚、他方の眼が2色覚という左右の眼で色覚特性が異なる人での色相合わせの実験結果(Graham, Hsia 1958)が採用されているが、ここでの主な評価基準は、配色された色彩の中に混同色があるのかどうか、そして、色彩によって定義された情報が明確に伝わるのかどうかである。もし、ここで、混同色が使われていたり、見分けにくいものなどあったりしたら、配色を再検討することになる。

2色覚シミュレーション検証によるカラーユニバーサルデザイン手法は,ハードウェアとして機能性フィルタによるゴーグル型の色弱模擬フィルタを用いたり、ソフトウェアとしてスマートフォンアプリケーション、または、グラフィックデザインソフトやフォトレタッチソフトの付属機能を使用したりすることで、比較的容易に実践することができる。ただし、この2色覚シミュレーションの正確性については議論の余地がまだ残っている(Broackes 2010; Sunaga et.al. 2013)。

もうひとつの方法は、あらかじめ混同色とはならないことがわかっている色パレットを作成し、配色に使う色をそのパレット中から選択していく方法である。現在、提案されている色パレットの代表がカラーユニバーサルデザイン推奨配色セットである(カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット制作委員会編 2018)。最新版の推奨配色セットのガイドブック(第2版)には、塗装用、印刷用、画面用というように用途に合わせた推奨配色例も掲載されており、とてもわかりやすく説明されている。カラーユニバーサルデザインに初めて取り組む方には、カラーユニバーサルデザインについての解説も記載されているので、お薦めである。

また、以上の2つの方法に加え、新たに 第3の方法として、2色覚の人向けの配色から色彩デザインを考案する方法も提案されている(佐藤ほか、2010、須長ほか、 2018)。この方法の特徴は、最初に2色覚の人向けの配色をし、その後に、3色覚の人向けの配色へと変更するという2段階から構成されている点である。まず、2色覚向け配色では、2色覚の人が見分けることができる色セットから色を選択する。そのため、必ず、2色覚の人はその配色を見分けることができる。次の段階で、3色覚の人に向けた配色へと変更を考える。変更後の色は、2色覚向け配色で選択した色の混同色線上の色、あるいはその付近の色のみに限られるため、変更前と変更後の色はどちらも、2色覚の人にとって混同色あるいは互いに類似した色となる。つまり、3色覚向け配色を2色覚の人が観察したとしても、変更前の2色覚向け配色とほとんど変わらない配色を2色覚の人は観察することになる。

これまで紹介した3つの方法以外にも、自動的に混同色を検出し、その色を変換するアリゴリズムや、ファジー制約充足問題解決を用い、色の見えが異なる色覚特性間に適した配色を決定する方法、そして、色の違いを見やすくする補助照明の開発なども進んでいる。

(須長正治)

関連する授業科目

メディアデザインコース 色彩学 

メディアデザインコース メディアサイエンス演習II

参考文献

  • 太田安雄、清水金郎(1999)『色覚と色覚異 これだけは知っておきたい理論と実際』金原出版
  • カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット制作委員会編(伊藤啓、社団法人日本塗料工業会、DIC 株式会社、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構,前川満良)(2018)『カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット ガイドブック 第2版』
  • 佐藤尊之、東洋インキ製造株式会社 (2010-07021)「色を選択する方法」特許第4507641号
  • 須長正治、城戸今日子、桂重仁(2018)「系統色名カテゴリを用いた2色覚基点のカラーユニバーサルデザイン配色法の提案」『日本色彩学会誌』42巻5号、209-217頁
  • Brettel, H, Viènot, F, Mollon, J D (1997), “Computerized Simulation of Color Appearance for Dichromats,” Journal of Optical Society of America A, 14-10, 2647-2655.
  • Broackes, J (2010) “Unilateral Colour Vision Defects and the Dimensions of Dichromat Experience,” Ophthalmic and. Physiological Optics, 30-5, 672-684.
  • Graham, C H , Hsia, Y (1958) “Color Defect and Color Theory,” Science, ]127-3300, 675-682.
  • Sunaga, S , Ogura, T, Seno, T (2013) “Evaluation of a Dichromatic Color-Appearance Simulation by a Visual Search Task,” Optical Review, 20-2, 83-93, 2013.